真に邪悪なものは人類か~『死霊狩り(ゾンビーハンター)』
平井和正『死霊狩り(ゾンビーハンター)』が、この6月にハヤカワ文庫より全3巻合本で、復刊を果たしたぞ。
今年に入って、1月に、ハヤカワ文庫より『狼の紋章』『狼の怨歌』が復刊。2月に電子書籍で角川文庫版『死霊狩り(ゾンビーハンター)』、3月に集英社文庫版『ストレンジ・ランデヴー』『インフェニティー・ブルー』が復刊され、平井和正作品の復刊ラッシュが続いて、いい感じなのだが、やっぱり紙の本で読めるのがいいね。
『死霊狩り』は、1巻目だけハヤカワ文庫から出版されて、2巻3巻は角川文庫で出版、もちろん1巻も角川から再版され、わたしは中学生の頃、『ウルフガイ』と平行して角川文庫版で読んだ。
当時から魅了されたのは、やっぱり壮絶なバイオレンス・アクションと、主人公・田村俊夫の苦悩、人類の残虐性とそれを命を賭けてでも乗り越えることの大切さ、というところかな。
人体に寄生し、その人物を操る、ゾンビーと名付けられた宇宙からの侵略者、に対抗すべく、極秘裏に結成された超国家的秘密機関「ゾンビーハンター」。カーレーサーだった田村俊夫は、レース中の事故で瀕死の重傷を負うが回復。その強靱な肉体と精神を見込まれた俊夫は、多額の報酬と引き替えにゾンビーハンターとしての壮絶すぎる訓練に参加。左目と左腕を失うも、訓練を終了しゾンビーハンターとなる。恋人がゾンビーに汚染され姉を殺害され、ゾンビーに復讐を誓う俊夫。しかしゾンビーハンターとして任務を遂行する俊夫に、さらなる過酷な運命が襲いかかる。
元々は、平井和正原作・桑田二郎作画で1969年に連載されたマンガ『デスハンター』を小説化したものだが、平井先生は、最初から小説形式で原作を書いてたという。ただ『デスハンター』のエピローグは、『ゾンビーハンター』では書かれてないけど、『日本SF傑作選4 平井和正』の巻末に未発表原稿として収録されているので、あわせて読みたい。
俊夫が使う拳銃、44オートマグが、若干古さを感じさせるかな。今ならデザートイーグル(当然.50アクションエクスプレス弾モデルだろうね)をチョイスするところだろう。
1998年には、韓国の漫画家梁慶一(ヤン・ギョンイル)によりマンガ化されたけど、4巻で途中打ち切りになっている。
一人の繊細な青年が、心を失い殺人マシンと化す。しかし愛の力(と友情も)で心を取り戻す。闇に囲まれても光はどこかにある。そんなことを教えてくれる作品かもしれない。
この勢いで、平井和正作品のさらなる復刊を願いたい。
日本SF傑作選4 平井和正 虎は目覚める/サイボーグ・ブルース (ハヤカワ文庫JA)
- 作者: 平井和正,日下三蔵
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2018/02/06
- メディア: 文庫
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人は、何故、闘うのだろうね〜『獅子の門』
夢枕獏さんの格闘小説といえば、
『餓狼伝』
既刊通算16巻(『餓狼伝』13巻『新・餓狼伝』現在3巻継続中)
『牙の紋章』
全1巻
『牙鳴り』
1巻で中断
『空手道ビジネスマンクラス練馬支部』
『東天の獅子』
天の巻全4巻、続編地の巻執筆予定
等があるが、ここで語りたいのは、『獅子の門』である。
この5月から『獅子の門』全8巻が文庫化され、7ヶ月連続刊行となった。
いやあ、これからこの物語を読む人はいいなあ、一気に全巻間を開けずに読めるんだから。
1巻目の群狼編が、光文社カッパノベルズで刊行されたのは、1985年8月。
最終巻の鬼神編が刊行されたのは、2014年3月。
なんと、完結まで29年もかかってるよ(同時期に始まった『餓狼伝』はまだ続いてるよ。タイトルを『新・餓狼伝』と改めた辺りから、展開がグダグダになってるけど)。
途中、3巻目青竜編1988年6月から4巻目朱雀編2002年3月と、14年の中断期間もあった。
わたしは、20歳前後ぐらいから読んでたけど、完結したときは、いやまあ、なんとか終わってよかったと、感慨深かった。もっとも、5巻目辺りで終わらせることができたんじゃないかな、とも思ってるけど。
物語は、以下の5人の青年たち、
芥菊千代
武林館空手茅ヶ崎支部道場指導者の鳴海俊夫より空手を学ぶ。後に鳴海の自流派設立に伴い、鳴海の一番弟子に。
竹智完
かつて武林館空手を学ぶもその後極道の道に。羽柴彦六に救われ、世界各地を放浪しながら拳法を習得。その後アメリカでブラジリアン柔術家マーカスの元で柔術を学ぶ。尚、鳴海のライバルで、武林館空手最強の男、麻生誠とは武林館門下生時代に親しかった様。
志村礼二
喧嘩に明け暮れる不良高校生だったが、それまでただの優等生だと思っていた同級生の加倉文平が、実は闘いにも強い男と知ってライバル心を抱く。武林館に入門するが、文平と同じ練習をしているだけでは文平を超えられないと考え、久我重明に師事。
加倉文平
生真面目な性格で、文武両道を実践する。真剣師(賭け将棋で生計を立てる博徒)の加倉文吉を養父に持つ。
室戸武志
幼少の頃より、プロレスラーの父、室戸十三に徹底的に肉体を鍛え上げられる。故あってフジプロレスに入社し、赤石元一ら先輩レスラーと共に、総合格闘家を目指す。
彼らが、謎の拳法家羽柴彦六と出会い、それぞれ己の理想とする格闘家の道を歩むものである。
と、なってるんだけど、さらに脇だったキャラクターの、
鳴海俊夫
ライバルである「努力できる天才」麻生誠に勝てず、突きによる顔面への攻撃が禁じられている武林館ルールに疑問を持ち、武林館を辞し、直弟子の菊千代と共に、顔面への突きありルールを採用する自流派、鳴海塾を立ち上げる。小学生から高校生の頃まで、柔道家天城六郎より柔道を学んでいる。
赤石元一
武林館創始者、赤石文三を父に持ち空手を学ぶが、プロレスラーに転向。ブラジリアン柔術家マリオ・ヒベーロと対戦し敗北。強さを求めて久我重明の元を訪ねるが、志村に敗北。その後紆余曲折を経て自らの原点である空手に回帰する。
鹿久間源
巨漢の格闘ジャンキー。天城六郎より技を習う。同じ天城門下だった鳴海に対しては「先輩」と(馴れ馴れしく)呼ぶ。すでに武術家をセミリタイアしてたとはいえ、並の格闘家なら十分あしらえる実力を持つ重明の兄久我伊吉を撃破。トーナメントに出場するため、何かと陰謀を巡らし、周囲を混乱させる。(こいつの登場で、5巻で終わらなくなったんじゃないか)
そして物語のキーパーソン、
羽柴彦六
拳法の達人。見かけは30代くらいだが、実際の年齢は不詳。常に各地を放浪している。そのため、鳴海俊夫、赤石文三、加倉文吉ら、知人も多い。かつて久我重明の師、萩尾流古武術萩尾老山を倒し、さらに久我伊吉を倒したことで、重明より対戦を挑まれている。
久我重明
通称「暗器(隠し武器)の重明」。黒い肌、黒い髪。黒いシャツと黒いズボンを着、黒い靴下に黒い靴を履き。おそらく下着も黒いだろうと形容される黒い男。兄伊吉と共に萩尾老山より萩尾流古武術を学ぶが、その技はもはや久我流ともいえる、何人も学ぶことのできない(フィジカル的でなくメンタル的に)レベルに達している。師と兄を倒した彦六を強い男と認め、その彦六と闘うことを切望している。たいへんインパクトのあるキャラクターで、余談だが板垣恵介による漫画版『餓狼伝』にも登場。その作中「必要な分は見せたということだ」「これ以上見せぬ」のセリフは、ネット上によく広まっている。
なんか、登場キャラクター紹介だけで長々と書いてしまったが、まあ、これらのキャラクターが、闘い合いながら、それぞれ自分の理想の格闘、ひいては人生、生き方を選び歩んでいく物語だな。
とにかく、迫力ある格闘シーンがひたすら続くけど、闘いの中で自分を見つめ、成長していく青年たちに、存分に感情移入して読み進めたい。
読み始めたとき、わたし自身この主人公たちと同世代だったしね。『餓狼伝』の丹波文七は30代だから、やっぱり『獅子の門』の方が好きだった。
格闘小説だけど、青春小説としても、秀逸な物語である。