或る独りのろまんてぃすと

思いついたことを、支離滅裂に書く

神がアブラハムに言った「息子を殺せ」~『ハンテッド』

少し前に、X-MENの(ヒュー・ジャックマン演じる)ウルヴァリンの最後を描いた、映画『ローガン』を観にいったのだが、映画が終わり、エンドクレジットが流れる。

すると、聞き覚えのある曲が流れた。

高名なカントリー歌手だった、ジョニー・キャッシュが晩年に発表した、『The Man Comes Around』だ。

ちなみに、『ローガン』のジェームズ・マンゴールド監督はかつて、ジョニー・キャッシュの伝記映画『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(2005年)を撮っている。

実はこの曲、いくつかの映画の主題歌などに使われているそうで、例えば『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004年、ザック・スナイダー監督)のオープニング、街でゾンビ出現によるパニックシーンがニュース映像風に映し出される中に、この曲が流れる。

で、やはりこの曲がエンドクレジットに流れているのが、今回語る『ハンテッド』(2003年)である。

同名の映画『ハンテッド』(1995年)とは断じて違うんだが、こっちはアメリカ人ビジネスマン(クリストファー・ランバート)が、名古屋でニンジャの抗争に巻き込まれる、B級アクションである。主人公を助けるサムライ役で原田芳雄も出てるけど。

話を戻すとしよう。

監督はウィリアム・フリードキン。主演はトミー・リー・ジョーンズベニチオ・デル・トロ

元軍の教官で、現在はカナダで動物保護官を務めるL.T.ボナム(トミー・リー)のもとに、FBI捜査官アビーが訪れる。アビーは、アメリカ・オレゴン州で発生した、ハンター連続殺人事件の捜査協力をL.T.に要請する。渋々引き受けたL.T.は現場となった森を検証するうち、犯人が、かつて自分が軍で指導した、アーロン・ハラム(デル・トロ)だと悟る。森の中に残る、わずかな痕跡を手がかりに追跡を開始するL.T.。そしてハラムと邂逅、格闘となるも後から駆けつけたFBIの援軍によって、ハラムは逮捕。しかし取調中、軍がハラムの身柄引き渡しを要求、軍に連行される途中、ハラムは毒薬を渡され自決を促されるが、隙を見て移送用車両を横転させ逃走。逃走を知ったL.T.はハラムを追跡すべく、逃走現場へと向かうが。

コソボ紛争に従軍し、戦果を上げたハラムだったが、元々心優しい青年が、悲惨な戦場を目の当たりにして、精神のバランスを崩し、凶行にはしってしまった。それ以前から、L.T.宛てに書いた、しかし住所不明で届かなかった、ハラムの救いを求める手紙の束を発見し、それらを読んだL.T.は、今の彼を救う唯一の方法、死を与えるため、ハラムと対決する。

まあたとえて言うなら、狂気に陥ったランボーが殺戮にはしり、元上官トラウトマン大佐が自らランボーを倒しにいくような話だ。

この映画のキモは、常人なら見過ごすであろう、些細な痕跡からも、多くの情報を知り、推理・判断するトラッキング(追跡)術だ。

L.T.は、森の中から街の中、あらゆる場所でも、状況を観察し、手がかりを掴む。もちろんハラムも、その裏をかくように、行動する。この追跡シーンは、たいへん緊張感みなぎる、すごいシーンだ。

好きなシーンがある。ハラムが潜伏する恋人の家、その恋人の幼い娘に、庭にあるウサギの足跡から、そのウサギのとった行動を推測するトラッキング術を教えるシーンだ。ハラムの心の優しさがよく表れている。そんな彼をも殺人者にしてしまう、戦争の非情な現実も浮かび上がる。

この、トラッキング術の監修をしたのが、トム・ブラウン・ジュニア。幼少の頃、アメリ先住民族リパン・アパッチ族の古老よりサバイバルとスピリチュアルの教えを受け、その技術を用い行方不明人捜索などで活躍、また、その教えを後生に伝えるための学校、トラッカースクールを立ち上げた。『ちびまる子ちゃん』でおなじみの漫画家さくらももこさんは、このトラッカースクールに体験入学の経験があり、その縁で、トム・ブラウン・ジュニアの著作の邦訳本の表紙を手がけたこともある。

L.T.とハラム、最後の対決。ともに手製のナイフのみで闘う。互いをナイフで切りつけ合い、体の痛みとともに、心の痛みも感じさせる。流れる血は涙かもしれない。激しくも、切ない闘い。勝者の胸に去来する思いはなんだろうか。

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