或る独りのろまんてぃすと

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鮫島警部、稲の害虫を追う~『炎蛹 新宿鮫Ⅴ』

昨今、ヒアリなど、有毒のアリが日本各地の港で発見されるというニュースが、世間を騒がせている。1995年には、やはり外来種セアカゴケグモが、大阪府高石市で発見されて以来、一部日本に定着してしまった。

で、大沢在昌『炎蛹 新宿鮫Ⅴ』である。

新宿鮫シリーズといえば、日本を代表するハードボイルド小説で、国家公務員Ⅰ種試験に合格し、キャリアとして警察庁に入庁したものの、いろいろあって新宿署防犯課(現在は生活安全課)に転属させられた、鮫島警部を主人公とする物語である。

キャリアだがはぐれ刑事という設定は、テレビドラマ『相棒』の杉下右京警部のモデルのひとつであろう。卓越した推理力と偏屈な性格は、島田荘司作の探偵御手洗潔がモデルかもしれないが。

現在長編10冊短編集1冊の新宿鮫シリーズで、実はわたしが一番好きな作品がこの『炎蛹』なんだけどね。

外国人売春婦連続殺人事件に、遠隔発火装置によるラブホテル連続放火事件、それに不法入国した外国人女性によって持ち込まれた、羽化すると日本の稲作に深刻な被害をもたらす未知の害虫“フラメウス・プーパ”の蛹を追うといった、三つの事件同時に発生し、それらの事件が微妙に繋がっていくという、たいへん読み応えのある作品だ。

また、普段は単独行動の多い鮫島警部だが、今作では、消防庁の調査官である吾妻、農水省植物防疫官の甲屋と協力しながら、これらの難事件の解決に尽力する。特に甲屋は、鮫島の捜査にも同行し、まるでパートナーのように行動する。前巻『無間人形』では、麻薬取締官の塔下が、組織と鮫島との信頼の間で苦悩するが、今回は鮫島、甲屋、吾妻それぞれ非公式ながら組織の枠を超え、知恵を出し合い、事件解決の糸口を探っていく。

さらに、その後鮫島の宿敵になる国際犯罪組織のリーダー、仙田勝(その正体は9作目『狼花』で明らかになる)の初登場回である。

“フラメウス・プーパ”は、ゾウムシの一種と説明され、爆発的な繁殖力を持ち、日本に定着すれば、日本の米はたちまち食い荒らされてしまう恐るべき昆虫である。ただしこの虫、作中の架空の存在なのだが。外来種は、一度定着してしまうとその駆除は膨大な時間と費用が掛かることとなり、やはり水際でくい止めるのが重要であることが、甲屋の口から語られる。

点であったそれぞれの事件が、線で結ばれ、解決していく。仙田の正体という謎は残るが、自分たちの仕事を全うする男たちの活躍が、読後感をたいへんさわやかにしている、おもしろい作品である。

炎蛹 新装版: 新宿鮫5 (光文社文庫)

炎蛹 新装版: 新宿鮫5 (光文社文庫)

 

 

 

 

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