或る独りのろまんてぃすと

思いついたことを、支離滅裂に書く

S(少し)F(不思議)藤子・F・不二雄短編マンガの世界~『宇宙(そら)からのお年玉』

SFといえば、「サイエンス・フィクション(空想科学小説)」の略だが、その後SFのジャンルが広がると、必ずしも科学小説とは限らないということで、「スペキュレイティブ・フィクション(思弁的小説)」とも呼ばれたりしたが、藤子・F・不二雄先生は、自身のSF作品を「少し不思議」と解釈された。

小学生のわたしは、小学館の学年別学習雑誌やコロコロコミックなどで、『ドラえもん』を始め、多くの藤子不二雄作品に親しんできた。そして、藤子・F・不二雄先生の短編マンガにも出会った。

最初に読んだのは、1983年1月1日号に掲載された『宇宙(そら)からのお年玉』だった。

なんとなく不安を抱えている主人公の少年(中学生ぐらい)は、ガールフレンドの家に遊びに行くが、彼女は大学生の家庭教師の話に夢中で、少年は疎外感を味わう。

その帰り、空から落ちてきた謎の球体を拾う。もしかしてUFOかと考え、ガールフレンドに見せに行くが、子供っぽい話と一蹴される。

球体にタマゴンと名付けて、部屋に持ち込む。翌日、お年玉の額の少なさに嘆いていると、タマゴンが勝手に転がり外に出る。少年は追いかけ、ようやく捕まえたところで、落ちていたダイヤの指輪を拾い、落とし主より謝礼をもらい、念願のヘリコプターのラジコンを購入。

河原でラジコンヘリを飛ばす少年。しかし別のラジコンヘリとニアミスを起こし、ヘリは墜落。その場所にはガールフレンドと家庭教師が。家庭教師は少年に、ラジコンとは子供っぽい遊びと揶揄するが、そこに現れた別のヘリを操縦していた中年男性が、男はメカに熱中してこそ当然(初出では“メカに狂ってこそ”だったけど)、と反論する。

これを機に、その航空機製作会社のエンジニアである男性と親しくなった少年は、少し希望を持ち、これはタマゴンのおかげだと感謝する。

まあその後、タマゴンの正体が地球に遭難した宇宙人だと分かるわけだが、宇宙人曰く「地球人とつきあうことは、宇宙国際法で禁じられているんだけど…」とことわりながらも、事情を説明するが、その直後少年は、ガールフレンドと家庭教師がキスを交わすのを目撃してしまいショックを受ける…

元ネタとして、1953年製作ジャック・アーノルド監督の古典SF映画「 イット・ケイム・フロム・アウター・スペース(それは外宇宙からやって来た)」(日本未公開)が上げられると思うが、この映画、地球に遭難した宇宙人たちが、宇宙船を修理して地球を脱出しようとしてるだけだったが、近辺の町の住民が、侵略と勘違いして宇宙人を攻撃しようとする。事情を知った作家である主人公の活躍で、なんとか宇宙人は地球を脱出するという話。宇宙人は穏やかな態度だが、外見は一つ目の怪物じみた姿のため、地球人にあらぬ誤解を生んでしまう。

タマゴンが正体を隠す理由は、これを踏まえてることだと思われる。一方で、恋愛感情といった、少年少女から大人になっていく心の揺れも描かれている。実は妻子持ちだが浮気性の家庭教師と、タマゴンを宇宙に戻す少年の計画に協力するエンジニアは、それぞれ大人の持つ悪い面と良い面を象徴しているのかもしれない。自分の持っている能力を、自己の欲望のために使うのか、他者を助けるために使うのか。これから大人になる少年は、どちらになるのか。答えはすでに出ている。

タマゴン曰く「ま、人生いろいろあって、ほんとのおとなになっていくのだ」

藤子・F・不二雄少年SF短編集 (2) (小学館コロコロ文庫)

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